JRAを見ていて次第に地方競馬にも視野を広げるという方は多いと思われます。その際、同じ用語が使われていても、微妙に違いがあることに気が付かれる方がいるかもしれません。
ファンに身近で最も顕著なのが出馬表に名前があるものの、レースに出走しない「出走取消」と「競走除外」ではないでしょうか。
JRAと地方競馬で意味合いが違う
地方競馬のチャット付きネット配信で競走除外が発生した場合、「これは返還になるのかならないのか?」というコメントが見られることがあります。
一般的な説明では、
JRA
出走取消 | 装鞍所に入る前に病気やケガ等の理由により、 そのレースの出走を取りやめること |
競走除外 | 装鞍所に入ってから、レースの発走までに病気や ケガ等の理由により、出走を取りやめること |
地方競馬
出走取消 | 勝馬投票券発売開始時刻までに病気やケガ等の 理由により、そのレースの出走を取りやめること |
競走除外 | 勝馬投票券発売開始時刻から、レースの発走までに 病気やケガ等の理由により、出走を取りやめること |
とされており、ニュアンスが異なっています。
※競走除外はこれ以外にも生じる可能性があります(後述)
勝馬投票の扱いが違う
JRAの場合、出走取消と競走除外の区分けとされるのが「装鞍所に入る前か後か」となっています。
JRAでは、出走馬が装鞍所に集合する時刻については、基本的に発走時刻の60分前とされています(ただし、「競馬番組一般事項」において例外的に時間を伸縮させる競走が指定されています)。
このため、勝馬投票券の発売開始後に出走取消も競走除外も発生する可能性があるため、当該馬に関する投票券の返還があるのかないのか、あるいは複勝式馬券の的中パターンが変わるのかは、発生の都度確認する必要があります。
一方、地方競馬の場合は「勝馬投票券発売開始時刻」がボーダーラインになっています。
このため、出走取消であれば最初から勝馬投票券の発売には含まれていませんが、紙の出馬表や予想紙より出走頭数が減っているため、複勝式馬券は的中パターンが変わる可能性があります。
これに対し、競走除外であれば基本的に投票が開始されているために返還が発生しますが、複勝式馬券の的中パターンは変更されないこととなります。(※例外あり)
境界が違う理由
競馬は競走だけでなく運営などのあらゆる項目に対して細かく定めたルールにより行われる競技です。
競走に関してはJRA、地方競馬(の平地競走)は根本的なルールは共通していますが、特に運営面に関してはJRA、各地方競馬主催者が実情に合わせて独自に制定している部分もあります。このうち、「出走取消」に関してはJRAと地方競馬でルール設定が異なっており、それが境界が異なる要因となっています。
出走取消
JRA「日本中央競馬会競馬施行規程」
(出馬投票)
第84条 馬主は、馬を出走させようとするときは、競馬番組で定める日時において出馬投票をしなければならない。
(中略)
5 出馬投票は、第2項の締切時刻以前でなければ取り消すことができない。
(出走の取消し)
第87条 馬主は、出走すべき馬について、次の各号に掲げる場合を除き、当該競走への出走を取り消すことができない。
(1) 馬の事故の内容を記載した書面又は疾病を証明する書類(委員長が指定する獣医師の診断書に限る。)を提出し、裁決委員の許可を受けたとき。
(2) 騎手の事故の内容を記載した書面又は疾病を証明する書類(委員長が指定する医師の診断書に限る。)を提出し、裁決委員の許可を受けたとき。
出典:JRA公式ウェブサイト「企業情報-JRA関係法令等」→こちら
地方競馬
(例)川崎競馬「神奈川県川崎競馬組合地方競馬実施規則」
(出走投票)
第34条 馬主は、出走の申込みに係る馬を競馬の競走に出走させようとするときは、出走投票をしなければならない。
(以下略)
(出走投票の取消し等)
第36条 出走投票をした馬主は、第34条第3項の締切日時の経過後は、当該出走投票を取り消すことができない。ただし、当該出走投票に係る馬又は騎手の事故又は疾病のため馬を出走させ、又は騎手を騎乗させることができない場合において、その理由を証明する書類を当該馬が出走する競走の勝馬投票券発売開始時刻までに番組編成委員に提出し、その許可を受けたときは、この限りでない。
(以下略)
出典:川崎競馬公式ウェブサイト「主な条例・規則等」→こちら
見比べると、
- 出走取消ができるのは「馬主」
- 原則は出馬投票(地方は「出走投票」と呼び、ここも表現が違います)締切前しか取り消すことはできない
- ただし投票締切後でも事故や疾病があった場合は許可を受けて取り消すことが可能
とほとんど一致していますが、地方競馬は取り消す書類提出の期限を「当該馬が出走する競走の勝馬投票券発売開始時刻まで」と定義しています。
これにより、馬主しか行えない出走取消は勝馬投票券発売開始までしか発生しないため、一般的な説明では「地方競馬の出走取消は勝馬投票券発売開始まで」となっていると思われます。
競走除外
競走除外を行うことができるのは、
JRA
裁決委員(「日本中央競馬会競馬施行規程」第105条第1項に基づく)
発走委員(「日本中央競馬会競馬施行規程」第105条第2項に基づく)
出典:JRA公式ウェブサイト「企業情報-JRA関係法令等」→こちら
地方競馬
馬場管理委員(各地方競馬の規則に基づく)
裁決委員(各地方競馬の規則に基づく)
となっており、いずれも競馬の開催に関する事務を処理させるために置かれた開催執務委員が行うことから、主催者権限で出走馬から除く措置という意味ではJRA、地方競馬で差はありません。
委員によって除外を行うことができる根拠事象は異なりますが、JRA、地方競馬問わず公正確保のため必要がある場合等は開催日でなくても競走除外を行うこともあり、出走確定後から発走までの広い期間内で競走除外は起こり得ます。
まとめ
出走取消と競走除外のうち、厳密に実行できる期間が決まっているのは地方競馬の出走取消だけです。
JRAの場合は制度上出走取消、競走除外とも締切はないのですが、装鞍所引き付け以降は各開催執務委員による関与がより強まるため、案内の目安として「装鞍所」で区別しているのではないかと思われます。ファンサイドも出走取消、競走除外のいずれであっても変更があれば勝馬投票に影響するか否かを確認する流れも定着しているようです。
地方競馬の場合は出走取消できる期限が決まっているため、そこを一般的な区切りと考えるのも自然であり、勝馬投票に連動している点も変更の有無を合わせて伝える機能を持たせているため、わかりやすいと言えます。
ただ、「発売開始前の競走除外」も制度上あり得るため、その場合は取り扱いが違うということは留意しておいてもいいでしょう。