JRA酷暑期の開催時間帯が変更、地方競馬への影響は?

地方競馬とJRA

2023年10月16日、日本中央競馬会(JRA)より2024年度の開催日割及び重賞競走の内容が発表されました。
この中で、「開催日割における暑熱対策」として、2024年より酷暑期における競馬開催の競走時間帯の拡大が行われることが発表されています。
「地方競馬IPAT」や「全日本的なダート競走の体系整備」によって、今やJRAと地方競馬はこれまで以上に密接な関係となっているのはご承知のとおりです。特に、JRAと開催日程が同じ地方競馬では、JRAとの競合を抑えながら、インターネット投票を通じてJRAのファンを地方競馬にも取り込む策を取ってきたことから、今回の競走時間帯の拡大は、地方競馬に大きな影響を及ぼす可能性があります。

ここでは、今回の発表を受けた地方競馬への直接的な影響の可能性を考察してみたいと思います。

なお、本記事は開催時間帯の変更のみに着目したものであり、人馬保護の観点からも暑熱対策は必要であると考えます。また、公表資料をまとめたうえでの私見であることをお断りしておきます。

開催日割における暑熱対策とは

JRAが実施する方策を具体的に示すと、「最も暑い時間帯は競走自体を行わず、休止となる時間帯の競走は前後の時間帯に振り分ける」となります。これにより、開始が早く、終了が遅くなります。

夏場の気温上昇が顕著になる中、競馬においても人馬とも熱中症対策が入念になっていました。2020年からは小倉競馬の夏季開催のうち、7月下旬~8月上旬の4日間を春季開催に移動して、高温地域での開催自体を避ける策を取ったため、その期間中は北日本の札幌・新潟の2場開催となって現在に至っています。しかし、北日本でも高温となる状況は年々顕著となる状況となっていました。

拡大案発表(2023年3月)

2023年3月27日、JRAが定例会見の中で暑熱対策として7~8月の競走時間帯拡大の案を初めて発表したと報道各社が伝え、下記の概要が示されたと報じています。

  • 1Rの発走時刻を午前9時30分頃に設定し、午前中に5競走実施
  • 午前11時半ごろから午後3時ごろまで競走を休止したのちに再開し、最終レースは午後6時半頃実施
  • 準メイン、メイン競走の時間帯は従来通り
  • この対策は北海道の開催では行わない
参考記事→中日スポーツ「暑熱対策で夏競馬の競走時間変更案 酷暑時間帯の競走休止など早朝と薄暮の分割開催 来年以降に実施へ【JRA】」(2023.3.27) こちら

正式発表(2023年10月)

そして、2024年の開催日割発表において公表された同年の「競走時間の拡大」の実施方法は以下のとおりとなりました。

JRAからの公式リリース

「2024年度競馬番組における新たな暑熱対策について」→こちら

  • 実施は第2回新潟競馬(7/27.28、8/3.4)の4日間
  • 最終競走を繰り下げたうえで、気温が特に高い時間帯での競馬を休止
  • 準メインおよびメイン競走は現行同様の時間帯
第1競走 9:30頃
休止時間11:30頃~15:10頃
第6競走(準メイン)15:10頃
第7競走(メイン)15:45頃
第12競走18:30頃

(上記JRA公式サイト発表を基に作成)

2024年度の実施は、暑熱対策により札幌と新潟の2場開催となっている期間で行われる新潟競馬場での4日間のみ。その他は3月に公表された案がほぼそのまま正式決定した形となっています。

準メイン・メイン競走は当初案通り時間帯を重視。僅かな期間だけ地上波やBSの中継放送の枠を移動することは現実的に考えられず、競走番号を変えることで、既存の中継枠のまま主要競走を中継できる形を取っています。

一方、同時開催の札幌競馬にスケジュールの変更はないため、新潟休止の時間帯も札幌の競走は行われている形となります。

地方競馬への影響は

JRAの開催スケジュール変更は、同日開催の地方競馬にとっても大きな影響があります。

  1. JRAとの重複時間帯の拡大
    JRAと地方競馬の開催が重複した場合、基本的にはパイの取り合いが生じます。新潟競馬場の開催に休止時間が設けられる一方、札幌競馬場の開催は通常のタイムスケジュールで行われることから、全体で見るとJRAの開催時間帯が拡がり、地方競馬との重複も拡がります。
    地方競馬も魅力を向上させ惹きつける取り組みが常に求められますが、現状はJRA終了後に地方競馬へ移る大きな流れがあるため、地方単独となる時間帯が狭まる影響は小さくないと思われます。
  2. 地方競馬IPAT発売時間帯の変更
    JRAのインターネット投票サービスを利用した地方競馬のインターネット投票「地方競馬IPAT」は2010年代中盤からの地方競馬の経営回復に大きく貢献してきました。
    JRA開催日には最大発売可能場数の制限や発売可能時間の制限があるため、JRAと同日開催の地方競馬は、できる限りIPATでの購入が可能となるようレース設定を調整し、特にJRAの開催が終わる時間帯から地方競馬IPATの発売が終了する時間帯に主要な競走を置くなどして、重点を置いてきました。
    しかし、JRAの開催時間帯が拡大されることで、IPAT発売時間帯も移動するため、重点を置く時間帯の変更も必至と見られ、新たな対応が求められることとなります。

具体的な変動はどれくらいか

スケジュールを表した開催時間帯の分布グラフ化しました。なお、開催時間帯はおおまかな範囲を示しており、地方競馬は競走数や開催日程によって数十分程度前後しています。また地方のうち岩手・金沢は薄暮開催、他3場はナイター開催です。

2023年(従来)

2023年の札幌・新潟の2場開催は10時前~16時半の間で行われていたため、薄暮開催の場で約2時間、ナイター開催の場で4時間あまりがJRAと被らない時間帯となっていました。また、土曜日は17時15分、日曜日は18時15分発走の競走まで地方競馬IPATの発売があるため、土曜は2レース、日曜は4レース程度、IPATで買えるレースが地方競馬だけという状況が生まれていました。

※矢印はJRAの開催時間帯を示す

2024年(想定)

札幌競馬の開催スケジュールが2023年と同じ、また各地方競馬が現状の開催スケジュールのままと仮定した場合の開催時間帯の分布グラフは以下のようになります。

※矢印はJRAの開催時間帯を示す

JRAの開催時間帯は1場開催の時間も含めて9時半~18時半となり、終了が2時間下がる形となります。この場合、過去の開催実績を踏まえると、薄暮開催の金沢競馬は全て、また岩手競馬も、全てもしくは最終競走以外の全てがJRAの開催と被ります。また、ナイター開催の場もJRAと被らない時間帯が2時間少なくなって、2時間程度となります。
なお、繰り下げに伴って地方競馬IPATの発売に変更があるのかについては現時点では発表がありません。

地方競馬各場ごとの影響は

各地方競馬ごとにどのような影響が考えられるか、見ていきましょう。

帯広ばんえい競馬

ばんえい競馬は土・日とも開催があるため影響が考えられますが、地方競馬IPATでの発売がないため、平地他場のような「JRA発売がない時間帯でのIPAT発売」という恩恵を元々受けていません。しかし、JRAが終わった後にばんえい競馬に移る層が多かった場合は、JRAからの移動が遅くなり、購入できるレースが少なくなる分の影響が考えられます。

岩手競馬

岩手競馬は2021年度から日・月・火の開催になっているため、日曜開催が影響を受けます。盛岡・水沢両場とも照明施設があるため薄暮開催を行っていますが、これまでの実績では地方競馬IPAT発売がない場合の最終競走発走が概ね18時30分前後で組まれており、19時を過ぎたケースはないようです。岩手競馬は80キロ近い距離がある盛岡と水沢の2地区に厩舎が分かれているため、どちらで開催しても相手地区からの人馬の輸送が生じることから、あまり遅い時間まで開催するのは難しいのかもしれません。
このため、スケジュールの変更がなかった場合、日曜日の開催は最終競走が僅かに被らない可能性がある以外、JRAとすべて被る形が想定されます。

金沢競馬

金沢競馬は日曜日の開催が多いため、影響を受けるものと見られます。2023年度から照明設備が導入されており、これまでの実績では18時30分発走が最遅の発走時刻となっています。このスケジュールを踏襲すると、全競走がJRAと被ることとなります。さらに遅い時間帯にレースを設定できるのかは不明です。
ただし、金沢競馬は近年日程設定が柔軟になっており、日曜日に開催せず平日のみの開催とするケースもあることから、2024年のように2週のみであれば開催日を調整することで影響を回避する可能性も考えられます。

高知競馬

高知競馬の夏季は土・日開催のため、影響を受けるものと見られます。ナイター開催で最終競走の発走時刻が21時前となっていることから、JRAと被る開催が2時間ほど増える分の影響が考えられます。一方、IPAT稼働時間の傾向に変更がなければ、JRA終了後の地方競馬IPAT発売となるレースはこれまでと同程度は確保できると思われますが、それに応じて主要なレースの開催時間帯は繰り下がるものと思われます。

佐賀競馬

佐賀競馬は連続開催に土・日が入ることが基本となっており、影響を受けるものと見られます。高知競馬と同様に、ナイター開催で最終競走の発走時刻が21時前となっていることから、JRAと被る開催が2時間程度増える分の影響が考えられます。IPAT稼働時間の傾向に変更がなければ、JRA終了後の地方競馬IPAT発売となるレースはこれまでと同程度は確保できると思われますが、それに応じて主要なレースの開催時間帯は繰り下がるものと思われます。

今後の注視点

影響を受けそうな各地方競馬の日程発表は例年2~3月に行われる傾向があり、この時期以降にどうするかが判明すると思われます。
一方、地方競馬IPATの発売スケジュールのうち、4~12月分については例年3月下旬に発表されます。IPATの発売時間帯がどのようになっているかによって、影響の度合いが変わると思われます。

2024年は4日間のみの実施となりましたが、夏季の酷暑の度合いが年々強まっているようにもうかがえる中、今後は対策の拡大が検討されていくかと思われます。地方競馬の開催がJRAの影響を受ける現状を変えることは難しい以上、日程や開催時間の点で地方競馬側も柔軟な調整を行うことが求められそうです。

余談:JRAのナイター化につながるのか?

かつて、競馬法には開催時間帯を日没までとする規定がありましたが、大井競馬場が1986年からナイター開催を実施するにあたり、1985年7月に競馬法の範疇からはその規定が削除されました。一方、JRAの内部規定の一つである「日本中央競馬会競馬施行規程」には開催を日没までとする規定が存在していたため、これが、JRAは日没までしか競馬開催ができないという根拠となっていました。

しかし、現在「日本中央競馬会競馬施行規程」から開催を日没までとする規定は削除されています。インターネット上のアーカイブサイトで確認したところ、2020年3月時点では規定が存在するも、2022年10月では消えていることから、この間の改正で実施されたものと推測されます(附則によると4度の改正あり)。

日本中央競馬会競馬施行規程


(競走の数等)
第68条 競走の数は、1日につき12以内とし、日出から日没までの間に行う。


(競走の数)
第68条 競走の数は、1日につき12以内とする。

(JRAホームページ「JRA関係法令等」→現行規程はこちら)

この規程変更は、今回の暑熱対策にあたっての開催時間帯拡大を受けてのものと推定されますが、ルール上はJRAもこれで開催時間帯を縛る規定がなくなったと解されます。

一方、規定変更からかなり遅れた2023年8月頃になって、インターネット上でこの話題が出た際、すわJRAもナイターかと騒がれたことがありました。

実際にJRAでナイター開催は可能なのでしょうか。

メリットとしては暑熱対策として酷暑時間帯を避けられる開催時間帯にシフトできる点と、昼間開催ではJRA中心にその日を過ごすことになるのに対し、昼間は別件を済ませ、夜に在宅投票で楽しめるという点があげられるでしょう。また、ナイター照明に照らされた芝のレースは昼間と違った雰囲気になるのかもしれません。

逆にデメリットになりそうなのが、開催時間帯が遅くなるために現地観戦客が帰路につく時間帯も遅くなる点。これによって特に都市部の競馬場では公共交通機関による観客輸送の時間帯が変わってしまい、その対応が輸送機関にも求められることになります。インターネット投票に振り切った地方競馬に比べ、JRAは現地観戦の比重が依然高いだけに、まず課題になるのではないでしょうか。
ただ、この点は薄暮開催が今後他場にも拡大される場合も問題になりそうな感があります。

また、地上波やBSなどのJRA関連でないテレビ中継の扱いも焦点となることでしょう。2024年の薄暮開催においては、メイン競走の競走番号をずらすことで中継時間を変えずメイン競走を放映できる形となっていますが、ナイター競走になると放送枠を根本的に変えないと対応しきれないと思われ、これも大きな課題になって来るものと思われます。

このほか、出走馬の輸送時間帯の遅い時間帯への変更、翌日に他場騎乗する騎手の移動、中間の調教、開催途中の休憩時間の設定等々、クリアしなければならない課題は他にも多いように思われます。

当然、JRAがナイターということになれば、土日開催の地方競馬場は大きな戦略変更を余儀なくされることは、言うまでもありません。

2024年に実施される新潟のみの薄暮開催の実施によって、変化による影響がどれくらい生じたのかを踏まえ、暑熱対策の観点から薄暮開催の拡大は検討される可能性があります。しかし、さらに進んだナイター開催となると、競馬関係者だけなく他方面にも大きな影響が及ぶことが想定されるだけに、JRAのファンの思いが高まったとしても、簡単にはいかないのではないかと筆者個人は感じています。

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