岩手競馬のクラス分けは定められた競走の獲得本賞金(1着から5着までに入り獲得した賞金)を一定のルールに基づき換算し、それを合算した「格付賞金」を評価値としてクラスを定めるルールです。
ただし、岩手競馬は格付を付与する対象の格付賞金の範囲が決まっている「絶対クラス制」ではなく、集団に対して格付けを付与する割合を決めた「相対クラス制」を取っているのが大きな特徴です。そこも踏まえながら岩手競馬のクラス分けルールをご紹介します。
なお、岩手競馬公式ウェブサイトでは直近開催回の出走申込(登録)状況を公開しており、そこに格付賞金も併記されているため、単純に格付賞金額を確認する場合は計算せずともそちらを確認することで事足ります。(もちろん専門紙にも掲載されています)
出走申込み馬の資格
岩手競馬に出走申込みできるのは地方競馬全国協会の競走馬登録を受けた軽種の馬(サラブレッド系という縛りはありません)であることのほか、主に以下の要件があります(このほか制裁歴による制限もあります)。
- 新馬とするのは出走時点で満2歳の馬
- 未出走馬の出走申込は4歳まで
- 転入馬はサラブレッド系2歳以上(収得賞金は問わない)
- 2歳馬の転入は通算10開催から
- 在籍馬(入きゅう後の馬)は年齢上限なし
※通算10開催=2023年度は第6回盛岡競馬(2023年8月6日~)
岩手競馬では2019年に2歳アングロアラブ馬が在籍したことがありましたが(未出走)、現在も新馬であれば規定上は出走可能となっています。一方、2歳の他場からの転入馬はサラブレッド系に限られ、またシーズン当初は転入できない規定が設けられています。
クラス分けの時期
岩手競馬では開催回単位で全クラスが最低1走できるようレースを編成していますが、クラス分けは原則として2開催を終了するごとに行うと規定されています。
ただし、格付賞金は毎開催ごとに再計算されています。また、4歳以上(秋からは3歳以上、以下「4歳以上」で統一)C2級馬は1開催が2週跨ぎの際、前半週と後半週にそれぞれ番組があるため1開催で2出走することができますが、前半週に本賞金を獲得していれば後半週は格付賞金が加算されクラス内の序列が上がります。
「在籍馬」と「転入馬」
格付賞金の算定にあたっては、既に所属している「在籍馬」か、新たに岩手競馬に転入してきた「転入馬」かによってルールが異なっています。基本的には「在籍馬」の方が有利になるよう組まれており、クラス分けルールからも定着を促している面もあります。
なお、2歳馬にはこの区分によるルールの違いはありません。
格付賞金の算定
格付賞金の算定方法は「4歳以上」、「3歳」、「2歳」の3区分に分けられています。
なお、岩手競馬は休催期間がある関係上、開催期間が前年度3月~12月で年度を跨いでいますが、クラス分けは年度に拘らず3月が当初の起点となります。
4歳以上
古馬のグループですが、一定の格付賞金に達した3歳馬はこちらへ編入されるほか(後述)、通算14開催以降は3歳馬が全て編入される「3歳以上」となります。
※通算14開催=2023年度は第8回盛岡競馬(2023年10月1日~)
格付賞金の算定対象競走
岩手競馬の格付けルールの大きな特徴として、「4歳以上」は過去成績の算入対象が期間ではなく競走数で指定されています。このため、コンスタントに使っていた馬の場合、他場ではクラス分け判定に入る競走が岩手では入らないケースがある一方、長期休養があったり、出走間隔を開けて使っていた馬は逆も然りとなります。
在籍馬に対する共通ルール
在籍馬については、岩手競馬の開催期間外(1月競馬開催最終日翌日から3月競馬最終開催初日前日までの間)に他主催者主催の交流競走に出走して収得した本賞金がある場合でも格付賞金には算入されません。
また、岩手競馬主催で取止めとなった競走に出馬確定されていた馬については、その競走に出走したものと見なされます(取止め前に出走取消、競走除外となっていた場合は除く)。
※1月競馬開催最終日翌日から3月競馬最終開催初日前日まで
2023年=2023年1月4日~2023年3月10日
2024年=2024年1月1日~2024年3月9日
競走数の数え方
算定対象となるのは本賞金獲得の有無にかかわらず出走した競走です。このため、競走中止も含まれます。出走取消、競走除外は含めません。
一方、取止めとなった競走がある場合は、前項の通り出走したものとみなされるため算定対象に含めます。ただし、レースが取止めでも決定前に出走取消、競走除外になっていた場合はそちらが優先され算定対象には含まれません。
※この部分は要領には記載がないため独自研究に基づくものです。
シーズン前半
前年度3月の「特別開催」から本年度通算11開催までは以下のルールで算定対象競走が定められています。在籍馬の方が対象競走数が少なくなっており、有利となっています。
区分 | 算定対象競走 |
---|---|
在籍馬 | 令和4年度第10回水沢競馬初日前日以前15競走における本賞金 (競走実績が15競走未満の場合は全て、岩手競馬開催期間外の 遠征は対象外)と令和4年度第10回水沢競馬初日以降における 本賞金との合計額 |
転入馬 | 令和4年度第10回水沢競馬初日前日以前20競走における本賞金 (競走実績が20競走未満の場合は全て)と令和4年度第10回水沢 競馬初日以降における本賞金との合計額 |
※通算11開催=2023年度は第5回水沢競馬(~2023年8月29日)
※令和4年度第10回水沢競馬初日前日=2023年3月10日
シーズン後半(岩手競馬秋番組)
通算12開催からシーズン終了までは2022年度から「岩手競馬秋番組」と称しており、2021年度以前はこの期間に入って来た「転入馬」のみ算定対象競走の起点を変更していたのを「在籍馬」でも行うルール変更が行われました。
番組編成要領に明示されているルールは下表の通りです。
区分 | 算定対象競走 |
---|---|
在籍馬 | 令和5年度第5回水沢競馬初日前日以前12競走における本賞金 (対象が12競走未満の場合は全て、岩手競馬開催期間外の遠征は 対象外)と令和5年度第5回水沢競馬初日以降における本賞金との 合計額 |
転入馬 | 令和5年度第5回水沢競馬初日前日以前20競走における本賞金 (対象が20競走未満の場合は全て)と令和5年度第5回水沢競馬初日 以降における本賞金との合計額。 |
※通算12開催=2023年度は第6回水沢競馬(2023年9月3日~)
※令和5年度第5回水沢競馬初日前日=2023年8月19日
この制度を導入した際、趣旨は下記の通り説明されています。
近走成績を重視してより馬の実力が接近した魅力あるレースをファンに提供するため、「岩手競馬秋番組」を導入し、在籍馬については12走(概ね3月~8月)の収得賞金額で番組賞金を再計算し、9月から始まる通算12回開催から新しい格付で番組を編成します。
岩手競馬公式ウェブサイト「2022年の競走体系」より抜粋(原文→こちら)
これに基づき、秋競馬開始前までに既に岩手に所属している在籍馬は、秋競馬の開始時には計算起点日から前の12競走の賞金で格付賞金が再計算され、格付賞金が下がります。これに基づいて各馬の序列が再編成され、以降は起点日以降の獲得番組賞金を加えていく形となります。
格付賞金への換算
格付賞金に算入する対象競走が定まれば各競走の本賞金を加算していくことになりますが、下記に該当する競走は、本賞金に控除率を掛けて算出した控除額を本賞金から差し引いたものがその競走の格付賞金となります。岩手競馬で全競走が獲得賞金より控除される他場はJRAと南関東のみで、その他の地区は岩手在籍中の2、3歳馬の遠征競走に限られます。
なお、アラブ系の「4歳以上」区分の馬は全ての計算を終えた結果値の40%をさらに控除した額が格付賞金となっています。
控除対象競走 | 控除率 | |
JRA主催競走 | 3歳及び2歳時岩手在籍中に出走 | 88% |
その他(岩手以外所属時を含む) | 80% | |
南関東4主催者主催競走 | 3歳及び2歳時岩手在籍中に出走 | 82% |
その他(岩手以外所属時を含む) | 70% | |
岩手競馬主催競走 | 重賞競走を除くJRA認定競走 新馬戦 |
70% |
岩手在籍中に出走した上記に該当しない3歳及び2歳の競走 | 40% |
3歳
「3歳」は「4歳以上」に比べると比較的シンプルですが、古馬戦への全馬編入前にも格付賞金上位馬を「4歳以上」に引き上げるルールがあります。
格付賞金の算定
「3歳」も「在籍馬」と「転入馬」で異なります。
在籍馬
「収得賞金額」(デビューから収得した1着から5着までの本賞金の合計額)がそのまま格付賞金となります。「4歳以上」のような競走に応じた換算はありません。
ただし、競馬開催期間外に他主催者主催の交流競走に出走し収得した本賞金額は「4歳以上」同様に対象外となります。
転入馬
基本は「収得賞金額」ですが、「在籍馬」と違って除外期間はありません。一方、競走に応じた本賞金から格付賞金への換算は行われており、まとめると下記の通りとなります。
競走の種類 | 控除率 |
JRA主催競走 | 80% |
南関東4主催者主催競走 | 70% |
その他の競走 | 控除しない |
4歳以上への編入
時期によって「4歳以上」への編入方法、格付賞金の算定方法が異なります。なお、2022年度より全馬編入が約1か月遅くなりました。
※2023年度
通算13開催=第7回盛岡競馬(~2023年9月26日)
通算14開催=第8回盛岡競馬(2023年10月1日~)
通算13開催まで
当該年度(今シーズン)の収得賞金が1,000万円に達した3歳馬は「4歳以上」へ格付けが編入されます。ただし、在籍馬に関しては当該年度の収得賞金を「3歳転入馬の格付賞金換算表」に基づいて控除を行い、それが1,000万円を超えていた場合にはじめて対象となります。
なお、「4歳以上」に編入された段階で格付賞金の算定も「4歳以上」のルールで行います。
通算14開催以降
3歳戦が組まれなくなるため、3歳馬は全て「4歳以上」に格付けされるとともに、格付賞金の計算も「4歳以上」の計算式に移行します。
2歳
「2歳」は最もシンプルです。岩手デビュー(在籍馬)か転入馬という区分はなく、他の世代への編入や算入対象競走の指定もありません。
格付賞金の算定
基本は「収得賞金額」ですが、下表に基づいて本賞金を換算したものが格付賞金となります。
競走の種類 | 控除率 |
JRA主催競走 | 80% |
南関東4主催者主催競走 | 70% |
その他の競走 | 控除しない |
クラス分け
クラスはA級、B1級、B2級、C1級、C2級の5段階に分かれており、「4歳以上」、「3歳」、「2歳」いずれの区分でもこのクラス分けで行われています。
要領上は「4歳以上」のみクラス分けが明示されていますが、「3歳」、「2歳」も同じクラス表示があり、クラスごとに賞金も異なります(ただし、例年「2歳」は競走数がある程度確保できてからクラス分けが開始されます)。
クラス分けの方法は2開催終了時点ごとに格付賞金の多い順に序列をつけ、それを5分割し、上からA級、B1級…とするもの。分割の方法は要領に記載がありませんが、毎年岩手競馬が発行しているファン向けブックレットによると、(注:2022年度版には記載がありません)
岩手競馬ではJRAのような優勝回数による『絶対クラス』制ではなく、一開催あたりのレース数に応じた『相対クラス』制を採っています。
一開催あたりの各クラスのレース数割合はA級・B級・C級でおおむね1:2:7(このほかに2歳・3歳戦が加わります)とされ、各クラスの頭数はそのレース数を満たすように調整されています。
岩手県競馬組合発行「ファンブック2021」
「岩手競馬2021年度レース体系」より引用
とあることから、各クラスのレース数を基準として各クラスへ割り振る割合が決まっていくようです。
好成績馬ほど序列が上がっていくのは絶対クラス制も相対クラス制も同じですが、相対クラス制の場合、賞金を獲得できない馬は賞金を獲得した馬に追い抜かれて序列が下がっていくため、開催が進むにつれてクラス上位の競走に好成績馬が固まる効果が期待できます。
また、各クラスのレース数に応じて格付する頭数が決まることから、絶対クラス制で時折起こるクラス間の在籍頭数が所定の比率とのずれが起こらないため、整然としたレース編成が可能です。
一方、転出入馬の規模などによっては、出走申込頭数の増減や格付賞金の分布状況が変化するなどして、成績や格付賞金の計算に関係ない要因でクラスが変動してしまう(前走勝っていてもクラスが下がったり、前走着外なのにクラスが上がったりする)ことがあるため、次はどのクラスにいるのかは組んでみないとわからないという難点があります。
昇級・降級
大きな降級が確実に発生するのは格付賞金の算定起点が変わるタイミング。従来は前年度3月に行われる特別開催の初回時のみでしたが、2022年度からは「秋競馬」の開始時期である通算12開催目以降(前述)も該当します。過去の格付賞金が算入対象から外れるため、経歴によっては一気に格付賞金が減って大幅に降級するケースがあり得ます。
一方、「相対クラス制」はどのクラスのレースが何レース作られるかを根拠にクラス分けが行われるため、成績だけでなく前回と編成状況が異なっているとそれだけでクラスが動くケースがあります。
要領には原則として2開催ごとという規定がありますが、実際に各開催回単位で在籍馬のクラス分けを見比べると、毎開催昇・降級している馬がおり、全馬が一律で2開催の間格付けを固定しているわけではないようです(ただし、4歳以上C2級で1開催2走する場合、前半週に好成績を収めてC1級馬格付け相当の格付賞金になっていても、後半週はあらかじめ登録されているC2級への出走となります)。
このため、どうなれば昇級するのかを定型的に言うことが難しいのが正直なところ。
また降級に関しても格付賞金がいくらになるのかは計算できても、よほどの低額でもない限り、どのクラスに下がるのか正確に予測することは困難です。さらにレース編成の都合でも降級があり得るため、こちらも単純明快ではないというのが結論となります。
参考:「令和5年度 番組編成要領及び諸規定集」
全文→こちら
(岩手競馬公式ウェブサイトより)