【全日本的なダート競走の体系整備】「ネクストスター」2歳秋

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2022年11月28日に地方競馬主催者・全国公営競馬主催者協議会・日本中央競馬会(JRA)・地方競馬全国協会(NAR)の4者連名で「全日本的なダート競走の体系整備」について発表がありました。

その中で、平地地方競馬すべてに直接的に関係するのが、前段となる「3歳ダート三冠競走を中心とした2・3歳馬競走の体系整備」(同年6月20日発表)でも「高額賞金の重賞級認定競走」として新設が予告されていた「ネクストスター」競走です。

「ネクストスター」には南関東地区を除く地方競馬各場ごとに実施される「2歳秋」と全国を4ブロックに分けて行われる「3歳春」の2種類がありますが、本稿では「2歳秋」を取り上げます。

どのような競走か

「ネクストスター」競走は2歳秋・3歳春とも、2・3歳ダート短距離路線の頂点競走である園田「兵庫チャンピオンシップ(JpnII)」に向けた各競馬場(2歳秋)・地区(3歳春)で行われる競走として位置づけられ、各地方競馬・地域における短距離競走の体系整備を狙いとしたものです。

このうち、2歳秋に実施されるのは南関東地区以外の下記8競馬場。全ての場で1着賞金は1000万円に設定。出走資格も全場統一で地方デビュー馬かつ開催場所属2歳馬の定量重量戦となっています。

各地の重賞級認定競走「ネクストスター」(2歳秋)
競走名実施場実施時期距離
ネクストスター門別門別10月上旬1200m
ネクストスター岩手盛岡10月中旬1400m
ネクストスター金沢金沢10月下旬1400m
ネクストスター笠松笠松10月中旬1400m
ネクストスター愛知名古屋10月下旬1500m
ネクストスター兵庫園田10月下旬1400m
ネクストスター高知高知10月下旬1400m
ネクストスター佐賀佐賀11月上旬1400m
NAR「全日本的なダート競走の体系整備」(2022.11.28)より抜粋

競走の趣旨

今回、いくつか謳われた体系整備の一つが「2・3歳ダート短距離路線の整備」。

2歳時は経験の浅さも考慮されてか短距離の重賞がありますが、3歳になるとダービー等の主要な世代重賞は中距離中心になり、短距離適性馬は一時的に古馬戦編入になるまで目標の競走がないという課題がありました。

これは、頭数の限られる地方競馬だけでなく、JRAを含めてもダートはその傾向が強いとされていました。

そこで、今回の体系整備がJRAと地方の垣根がないものとされたこともあり、1870m戦から1400m戦に変更する園田競馬場の「兵庫チャンピオンシップ(JpnII)」をダート競馬全体の3歳短距離路線の頂点競走とし、そこに向かう路線を整備することで所属に関わらずダート短距離強豪馬が空白期間なく適性を生かせる場を構築しようというものです。

しかし、単にダートグレードを置いただけでは、諸条件において優位とされるJRA馬が優位と目されるこれまでと変わらず、興味もそがれることから、主体となる地方競馬側も魅力ある有力馬を抱えなければなりません。

そのためには過程となる競走の魅力を高めることも必要であることから、方策の一つとして、各場に中間目標となる高額賞金の競走を置くことでダート適性の見込まれる素質馬の入厩先の選択肢を増やし、全体の底上げも図る狙いがあると思われます。

なお、「ネクストスター」の競走にJRAデビュー馬は出走できない規定も設けられており、地方競馬デビュー馬の為の競走という位置づけも持たせています。

各場の短距離主要競走の現状

「1着賞金1000万円の開催場所属馬限定2歳競走」は開催各開催場にとってはどれ程のインパクトがあるものでしょうか。「ネクストスター」は短距離戦であることから、対象各場の主要な2歳戦のうち、2022年に1600m未満の距離で行われた競走をまとめます。

※実際に「ネクストスター」が開催される2023年は、下記の競走も条件が変更されている可能性がありますので参考としてご覧ください。

2022年 「ネクストスター」開催各地の2歳短距離主要競走
場名 2022年 競走名 距離
(m)
1着賞金
(万円)
備考
門別 6/28 第47回栄冠賞(H2) 1200 400 地方交流
7/14 第9回フルールカップ(H3) 1000 300 牝馬地方交流
9/8 第22回イノセントカップ(H3) 1200 300 地方交流
9/21 第19回リリーカップ(H3) 1200 300 牝馬地方交流
10/20 第25回エーデルワイス賞(JpnIII) 1200 2,000 牝馬指定交流
盛岡 9/6 第40回ビギナーズカップ(M3) 1400 250  
10/2 第13回知床賞(M3) 1400 250 地区交流
11/13 第38回プリンセスカップ(M1) 1400 500 地方交流
金沢 9/19 第17回金沢プリンセスカップ 1400 250 牝馬
10/2 (準)くろゆり賞 1400 140 デビュー馬限定
10/18 第7回金沢シンデレラカップ 1500 300 牝馬地方交流
10/30 第24回兼六園ジュニアカップ 1500 300  
12/24 (準)あての木賞 1500 140 奨励馬限定
笠松 9/22 (準)第47回秋風ジュニア(P) 1400 250 所属馬限定
10/20 (準)第50回ジュニアクラウン(P) 1400 250 所属馬限定
12/30 第26回ライデンリーダー記念(SPI) 1400 500 地区交流
名古屋 8/18 (準)若駒盃(P) 1500 180 デビュー馬限定
10/26 (準)第1回弥富記念(P) 1500 350 デビュー馬限定
園田 8/11 (特)兵庫ジュベナイルカップ 1400 400  
9/22 第24回園田プリンセスカップ(重賞II) 1400 500 地方交流
10/13 第15回兵庫若駒賞(重賞I) 1400 600  
11/24 第24回兵庫ジュニアグランプリ(JpnII) 1400 3,000 指定交流
高知 10/1 (準)潮菊特別 1300 400  
10/30 第7回黒潮ジュニアチャンピオンシップ 1400 800 デビュー馬限定
12/28 第44回金の鞍賞 1400 800  
佐賀 10/2 第33回九州ジュニアチャンピオン 1400 400 デビュー馬限定
12/18 第1回フォーマルハウト賞 1400 400 牝馬地区交流
※盛岡芝コースのマイル未満競走は除いた。
競走名の下に下線がある競走はJRA認定競走
「地方交流」=地方全国交流 「地区交流」=地方の一部地区との交流
「デビュー馬限定」=開催場所属・開催場デビュー馬限定

JRA認定重賞・デビュー馬限定重賞は今でもある

平地競走開催でJRA認定競走がない主催者は2022年時点では高知競馬だけとなっており、各場ともJRA認定競走を兼ねた重賞も既に行われています。

また、新馬入厩促進の観点もあってか、実施規模に差はあるもののホッカイドウ競馬を除き2歳の開催場所属・デビュー馬の限定競走も行われており、「JRA認定かつ開催場所属・デビュー馬限定」もいくつも例があるため、この点もそこまで珍しい存在ではありません。

明確な2歳短距離ローテーション採用はごく少数

ホッカイドウ競馬は既に短距離重賞がシーズン中~後半に1か月程度の間隔で設けられていますが、その他の場は3歳の中距離重賞を見据えてか時期が進むにつれ主要競走は距離を伸ばす傾向にあり、2歳全体での最後の重賞は上記の表にないマイル以上というのがほとんど。

そもそも地方各場単位の2歳馬自体の在籍頭数、競走数自体ともそれほど多くないため、距離適性に応じた路線を作ること自体が難しい場もあるのが現状です。

賞金は最高レベル

ダートグレード競走を除くと、「ネクストスター」開催各場で1着賞金1000万円以上の2歳重賞競走自体が極めて少なく、マイル未満ではありませんでした。

今後各場毎に賞金水準の向上が別途行われる可能性もありますが、場によっては「ネクストスター」競走が突出した賞金の競走となりえます。

まずは全般的な新馬確保の促進の意味合いにも

「ネクストスター」競走の整備は各場における短距離路線の整備を名目としたものです。

ただ、2歳秋の開催時期は10月~11月上旬と、場によっては適正が見極められるほど距離の経験も積めておらず、ようやく各地の2歳馬の勢力図がある程度固まり始める時期という感があります。

現状でも各場ではこの時期に短距離重賞が設置され、これをステップに後々中距離重賞で活躍する馬も輩出しているため、優勝馬に「兵庫チャンピオンシップ(JpnII)」への優先出走権を付与し短距離路線へ明確に誘導する3歳春の「ネクストスター」競走とは違い、2歳秋の「ネクストスター」は各場に2歳秋の大目標となるレースを全国一律条件で置いたと考えてもいいかと思われます。

場毎の濃淡はあるとはいえ、売上の上昇もあって賞金水準は以前よりは改善されている中、今度は比較的早い時期に高額賞金のレースが各場にできた事で、これも一つの呼び水にダートの素質馬が地方各地をデビューの地に選ぶことが期待されます。

競走体系改善の機会にも

2歳秋の「ネクストスター」競走は多くの主催者が直接的に影響を受ける競走であり、ダートグレード改編の影響を直接的に受けない場にとっては唯一の競走体系改善への起爆剤といえます。

一方、現時点では各場とも公表された「ネクストスター」競走設置時期と既存の短距離重賞が同じ時期に設置されているケースが目立つため、それらにも何らかの手が入ることが想定されます。この際に各主催者が既存競走との兼ね合いをうまく調整しないとその効果も不十分になりかねません。

地方競馬には「わが競馬場のスターホース」というJRAにはない概念のブランドがあり、そういった馬が登場すると大いにその競馬場も盛り上がり、全国のファンからも注目を集めることは歴史が証明しています。それが自場デビューの生え抜き馬となればなおさらでしょう。

2歳秋の「ネクストスター」競走を若駒達の競走を活性化させるために上手く活用できるか。各主催者の手腕と若駒達の競走のさらなる活性化への本気度も試されるところです。

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