JRAになくて地方競馬にあるものといえば「ナイター開催」。平日ならば仕事終わりに、土日はJRA観戦後の延長戦に、といった楽しみ方ですっかりおなじみになってきました。
ナイター開催の現状
現在ナイター開催を行うのは9競馬場と地方競馬開催場全体の過半数を占め、冬季以外はナイター競馬がない日が珍しいくらいになるなど圧倒的な存在感を持っています。
ナイター開催では14~15時頃からレースを開始し、最終競走は21時前に設定されています。また、近年のインターネット投票や恒常的な場間場外発売に合わせ、同時並行開催場同士で発走時刻が重ならないよう調整されています。
開催場 | 愛称 | 開始日 | 開催時期 | 最終発走時刻 |
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帯広 | (注) | 2007(平成19)年6月16日 | 4~11月 | 20:45 |
門別 | グランシャリオナイター | 2009(平成21)年5月20日 | 4~11月 | 20:40 |
船橋 | ハートビートナイター | 2015(平成24)年6月15日 | 通年 | 20:50 |
大井 | トウィンクルレース | 1986(昭和61)年7月31日 | 3~12月 | 20:50 |
川崎 | スパーキングナイター | 1995(平成7)年5月7日 | 4~12月 | 20:50 |
名古屋 | ベイサイドナイター | 2022(令和4)年4月25日 | 主に1~3月 | 不定 |
園田 | そのだ金曜ナイター | 2012(平成21)年9月7日 | 5~10月の金曜 | 20:30 |
高知 | 夜さ恋ナイター | 2009(平成21)年7月24日 | 通年 | 20:50 |
佐賀 | ほとめきナイター | 2020(平成29)年6月15日 | 3~12月 | 20:40 |
(注)開始当初は「ばんえい十勝ナイトレース」と呼ばれていたが現在は使用されていない
なぜナイター開催へ
昼間開催で行われてきた公営競技がナイター開催に移行するきっかけは、その時期を問わず現状の打開にありました。
インターネット前
地方競馬のみならず公営競技全体で最初にナイター開催を導入したのは1986年7月31日スタートの大井競馬場。地方競馬最大規模の競馬場であっても当時はファン、売上の減少という課題に直面しており、平日昼間開催では掘り起こせない新たなファン層の開拓に向けて、本場や場外発売所で仕事帰りのサラリーマンも参加できる時間帯へ開催をシフトすべく実施されたものです。
この試みは成功し、都心の夜の新たなレジャーとして定着。これを受けてイルミネーションの導入やオシャレな場内施設の整備、常時の生ファンファーレといったテーマパーク的な要素やイベント性を年々高めた結果、現在の「TCK 東京シティ競馬」へと繋がっています。
当時はインターネット投票がない時代。ナイター開催への移行は新規の来場ファン層の開拓であり、この時代にナイター化を行ったのは大井、旭川(2008年開催終了)、川崎といずれも平日を主な開催日とする競馬場でした。
インターネット後
1995年5月7日に川崎競馬場でナイターが導入された後は、一旦ナイター移行への流れが止まりますが、21世紀に入りレジャーの多様化が進むと地方競馬の経営が各地で悪化。売り上げ減少→経費削減→魅力低下→さらに売り上げ減少と負のスパイラルに陥って廃止となる競馬場も相次ぎ、残る競馬場も微妙な立ち位置に立たされるところが相次ぎました。
このような情勢下、2000年代後半辺りからインターネット投票サービスが徐々に知名度を持つようになると、本場と近隣の場外発売所といった狭い商圏ではなく全国で投票できるインターネット投票に軸足を移せば売上の確保に繋がるのでは、という考えが出始めます。
この動きは大きな競馬場と日程的に競合する小さな競馬場に多く見られ、「競合の少ない時間帯で開催する」というキーワードがよく登場するようになります。
そのため、21世紀に入ってナイター開催に移行した競馬場の多くは、JRAや他場競合が少ない時間帯を開拓し、全国相手にインターネットで投票してもらうことを主眼としたものが主流となりました。
当初、インターネット投票のシェア拡大は投票業者への販売委託料支払いが増大し、収益性に乏しいのではとの評も見られましたが、2012年秋に限定的ながらJRAのインターネット投票「IPAT」で地方競馬の投票が可能になり、2017年度から「SPAT4」で発売対象が全地方競馬全レースに拡大されると、各地方競馬の売り上げ規模が急拡大し、多くの地方競馬が累積赤字の解消や構成自治体への収益繰り入れの再開をも成し遂げたことから、結果的にこの方策は地方競馬にとって間違っていなかったといえます。
収益改善が実現した各地方競馬は、経営難の影響で遅れていた老朽化した施設の改善にも取り組めるようになり、本場にも足を運んでもらえるようスタンド改修を行ったり広報の充実化を図ったりと魅力向上にも力が入るようになりました。
ナイターではない薄暮開催
「ナイター開催」に明確な定義はありません。
一方で、現在の地方競馬の開催のトレンドはより遅い時間帯へのシフトにあります。
このため、ナイター開催が可能な競馬場であっても、日没を過ぎてナイター照明が点いているものの、諸事情により20時台より前に開催が終わる場合は「薄暮開催」と称されることがあります。
また、盛岡競馬場は2018年秋からダートコースにナイター開催も可能そうな規模の照明設備を用いた薄暮開催を導入し、日没が早い秋季は照明設備を点灯して走路の照度を確保、日没が早くなるとともに最終競走の発走も早くなる事態を防ぐようになりました。
その後、2023年3月から浦和競馬場、水沢競馬場、金沢競馬場も照明設備を導入して全面的な薄暮開催へ移行しており、日没時間に左右されないレーススケジュールを組める体制に移行しています。
現在、地方競馬開催場で競馬開催に対応した照明設備を持たない競馬場は、笠松競馬場と姫路競馬場のみとなっています。
周辺環境との兼ね合いもあるため、照明設備を持っている全ての場がナイター開催とはなりませんが、営業施策面からも発走時刻を調整する試みは各場で今度もなされていくと思われます。