公営競技としての競馬は競馬法をはじめとする各種法令に基づき開催されています。その法令においては開催日数についても定められており、その範囲内で日程が組まれます。
インターネットにより、全国の地方競馬を手軽に観戦して購入できるようになったことで、地方競馬は毎日どこかで開催しているというイメージも浸透していることかと思われますが、これは各主催者ごとの開催日程を組み合わせた結果、最終的にほぼすべての日が埋まるという形であり、各競馬場においては法令に基づく縛りの範囲内で日程を組んでいます。
本記事では、地方競馬の開催日数について見ていきます。
根拠法令
競馬法
日本競馬の根幹となる法律はもちろん競馬法です。ただ、競馬法において地方競馬の開催については、
競馬法
(e-gov 法令検索より→こちら)
(競馬の開催)
第二十条 地方競馬は、次に掲げる事項につき農林水産省令で定める範囲を超え、又は農林水産省令で定める日取りに反して、開催してはならない。
一 都道府県の区域ごとの年間開催回数
二 一回の開催日数
三 一日の競走回数
(第二項 略)
とだけ規定されており、具体的な内容は農林水産省令に委ねています(実務的な項目を国会での審議を要しない命令(省令、規則等)で定義することはごく一般的です)。
なお、中央競馬(JRA)においても競馬法第3条で同様に規定された上で、具体的には農林水産省令に詳細が示されています。
競馬法施行規則
地方競馬の開催日程に関する具体的な内容が規定されているのが農林水産省令にあたる競馬法施行規則第29条です。(参考:中央競馬は同規則第2条にて規定)
競馬法施行規則
(e-gov 法令検索より→こちら)
(開催の範囲及び日取り)
第二十九条 法第二十条第一項の農林水産省令で定める範囲は、次のとおりとする。
一 都道府県の区域ごとの年間開催回数(毎年四月一日から翌年三月三十一日までに開催される回数をいう。以下同じ。)については、別表第一の上欄に掲げる都道府県の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる回数
二 一回の開催日数については、六日(天災地変その他都道府県又は指定市町村の責めに帰すことのできない理由により開催日において予定された一日の競走回数の二分の一以上の競走を実施することができないときは、六日に当該開催日の日数を加えた日数)
三 一日の競走回数については、十二回
(第二項以下略、別表別掲)
別表第一(第二十九条関係)
都道府県名 | 年間開催回数 |
---|---|
北海道 | 43回 |
兵庫 | 29回 |
愛知 | 28回 |
岩手、東京、石川、 岐阜、佐賀 | 21回 |
高知 | 19回 |
神奈川 | 15回 |
埼玉、千葉 | 13回 |
その他の府県 | 4回 |
中央・地方を問わず競馬の開催日程を「第○回第○日」と表現しているのは、法令上で「回」という単位の中に各開催日を属させていることに基づきます。
地方競馬は都道府県ごとに年度単位で回数の上限が設けられており、原則としてこの回数に1回の(最大)開催日数である6日を乗じた日数がその都道府県で1年度の間に地方競馬を開催できる日数の上限となります。
道県内に主催が2者いる北海道(北海道・帯広市)と石川県(石川県・金沢市)は2者でこの上限を分け合う形となります。また、県内1主催者でも2競馬場で開催する岩手県(盛岡・水沢)と兵庫県(園田・姫路)は開催回を競馬場単位でも分けなければならないため、2場で開催回を分け合うこととなります。
特別競馬
本則とは別に、地方競馬では競馬法施行規則附則第4項を根拠とし、主催者が農林水産大臣へ届け出を行うことによって、別表第一の回数に加えて最大3回(×6=18日)まで「特別競馬」を開催することが認められています。
競馬法施行規則
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4 都道府県又は指定市町村は、当分の間、次に掲げる事業が円滑に実施されるために必要な資金を確保するための競馬(以下「特別競馬」という。)を開催することができる。この場合において、当該特別競馬を開催する都道府県の区域(当該特別競馬を開催する者が指定市町村である場合にあつては、当該指定市町村の区域を包括する都道府県の区域)の年間開催回数については、当該特別競馬の開催回数が別表第一の下欄に掲げる回数に追加されたものとみなす。
一 競馬場の施設又は周辺環境の改善事業
二 国際博覧会その他高度の公益性を有する事業
5 前項の規定により開催することができる特別競馬の都道府県の区域ごとの年間開催回数は三回以内とする。
開催日数の現状
根拠法令を踏まえて現状の各主催者ごとの開催日数を上限と対比してみました。
都道府県 | 上限回数 | 上限日数 | 開催回数 | 開催日数 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
北海道 | 43 | 258 | 15 | 85 | 北海道主催(ホッカイドウ競馬) |
25 | 149 | 帯広市主催(ばんえい競馬) | |||
岩手 | 21 | 126 | 11 | 66 | 盛岡競馬 |
11 | 64 | 水沢競馬 | |||
埼玉 | 13 | 78 | 13 | 58 | |
千葉 | 13 | 78 | 12 | 60 | |
東京 | 21 | 126 | 20 | 98 | |
神奈川 | 15 | 90 | 13 | 64 | |
石川 | 21 | 126 | 19 | 77 | 石川県主催 |
3 | 12 | 金沢市主催 | |||
岐阜 | 21 | 126 | 21 | 99 | |
愛知 | 28 | 168 | 27 | 113 | |
兵庫 | 29 | 174 | 24 | 131 | 園田競馬 |
5 | 30 | 姫路競馬 | |||
高知 | 19 | 114 | 19 | 109 | |
佐賀 | 21 | 126 | 23 | 116 | |
その他 | 4 | 24 | 0 | 0 | 開催地なし |
・上限回数は競馬法施行規則別表第一、上限日数は上限回数の6倍の値。
・開催回数・開催日数は2022年度当初発表日程。
JRAでは法令上の限度いっぱいまで開催が組まれている現状からくる課題がコアなファン等から話題として挙がることがありますが、現在の地方競馬では開催回数が上限を下回る主催者もあり、日数にもまだ余裕があります。
ただ、各場の開催日程の配置は1開催6日という法令上の規定を使い切るよりも、各競馬場のレース編成の傾向や営業的な面も重視して組まれます。その結果、地域によっては1開催が4~5日で終わるところもあり、結果としてやや余裕のある現状の開催スタイルになっています。
そのような状況でもレース数の上限である12レースを編成しきれなかったり、小頭数レースも一定数見られる現状からすると今の上限でも十分間に合っているとも考えられます。
なお、本則を超える開催回数を行っている県がありますが、いずれも1~2回だけ上回っていることから、これは競馬法施行規則附則第4項の特別競馬を開催していると思われます。